(事例3)学習課題:絵と文からなる一枚の作品による情報伝達
グラフィックソフトを用いて、絵と文からなる1枚の情報伝達作品(情報伝達を目的とするポスター、パンフレットなど)を作成しよう。できあがった作品をお互いに評価し、改善情報を収集しよう。その改善情報をもとに作品を修正し、完成させよう。
・重点 新たな情報の創造、伝達能力の育成および評価に基づく改善能力の育成
・形態 主として個人学習、要所要所に一斉指導(課題説明や発表会など)
・時間 約8-9時間
◆学習目標
(1)メディアによるコミュニケーションの方法について理解する。
(2)情報評価の観点を身につけ、情報の価値を判断する力を養う。
(3)グラフィックソフトの利用技術を身につけるとともに利点と欠点を意識する。
(4)自分の作品に対して、改善情報をもとめて修正する態度を身につける。
(5)オリジナリティを重視する態度や、情報発信に対する責任をもつ態度を身につける。
【関連する学力項目】
A 知識理解(含む概念把握)
B 技能習得・表現力
B-01 情報の表現法・伝達法
B-05 プレゼンテーションのための情報技術の利用
B-08 企画立案の技術
B-11 特定のハードウエアの基本操作
B-12 文書作成・DTPR技術
B-13 ファイルの保存・検索・印刷の技術
B-14 メディア編集
B-15 マルチメディア作成
B-22 論文・報告書の記述
C 思考力・判断力の育成
C-01 計画を立てて取り組む
C-02 情報を幅広く収集する
C-08 利点と欠点を考えて検討する
C-15 情報の価値を判断する
D 関心・意欲・態度・習慣の形成
D-02 適切なコミュニケーションの方法を選択する
D-03 問題意識を明確にする
D-04 自由に意見を交換する
D-05 自分の意見をメディアを利用して、適切に伝える
D-07 相手の立場に立ってわかりやすい表現に努める
D-11 新しい情報関連機器を積極的に理解し、特性にあった利用方法を習得する
D-14 著作権やオリジナリティを尊重する
D-18 自分の発信した情報の影響を、客観的に評価し、必要な改善を行う
D-19 必要な情報を自分で管理する
◆評価の視点
・コンピュータ(グラフィックソフト)を用いた特徴がいかされているかどうか。
・作品は、「情報のわかりやすさ」、「有効性」、「独自性(オリジナリティ)」などの観点から評価する。生徒同士の相互評価を取り入れる。
・改善情報に基づく修正で、作品がどれだけ良くなったか(改善性)も、評価に加える。
◆指導案及び指導の留意点
(1)課題提示と作品例の紹介(30〜40分)
まず、学習課題を提示してその目的とするところを説明する。テーマは、大枠だけを与えて、その中で選択の自由度が高いものが望ましい。ここでは、「私の推薦」という大枠を与え、分が自信をもって他の人に薦めたいことがらを、絵と文字からなるA4サイズ一枚の情報伝達作品として作成することを課題とする。課題をイメージしやすいように、過去の作品例をいくつか紹介した。作品評価の観点についてもふれておく。また、作成者の名前、日付、参考文献(もしあれば)を明示することもこの段階で説明しておくと、情報発信に対する責任感やオリジナリティ重視の指導に結び付けやすい。
(2)テーマの設定・計画(1時間)
作品例を参考にして、自分のテーマをいくつかリストアップして、必要な情報を幅広く収集する。その中から最も適当なものを選択する。授業では、複数のテーマをリストアップさせ考える時間をとるが、情報収集の必要やテーマ設定に個人差が大きいので、宿題とする。
(3)グラフィック作品の制作(3〜4時間)
集めた情報を整理して、再構成をはかる(選択、加工、創造)。
グラフィックソフトを利用し、絵や図形を中心にして、文章で補足説明を行う形で作成する。グラフィックソフトによる作成技術・編集技術の基本的なところだけを指導し、あまり多くの機能を教えすぎないことが重要である。
(4)作品の相互評価活動(40分)
作成したグラフィック作品を相互に評価する。情報の価値・評価の観点として、「わかりやすさ」、「創造性(独自性)」、「有用性」などを明示した。また、良い点と改善点を評価用紙に書いてもらい、作成者に改善情報をフィードバックした。今回は、クラスの人数が約40名で、時間節約の都合で、グループに分け(8名/グループ)、その中で評価・交流を行った。
(5)作品の改善活動(1〜1.5時間)
評価用紙のコメントを要約したものと、改善の方針を書いたものを提出させるとともに、善活動に取り組むことを指導した。従来、作品制作は発表や評価でおわることが多いが、ここでは、評価に基づく改善活動を重視した。コンピュータを利用した情報生産においては、編集作業が容易であり、ここにコンピュータ利用の意義があると考えるからである。また、生徒には、積極的に改善情報をもとめ、それを参考に修正していく態度や習慣を身につけるように指導することが重要である。
(6)作品の発表と鑑賞(40分〜1時間)
今回は、全員の作品を掲示板に掲示して、良いと思う作品を5つ選んでもらい、その結果を集計して報告した(5つの観点別の5段階評価で評価することもある)。高い評価を受けた作品をOHPシートにコピーして、どこがよかったかをまとめる。作品完成の満足感や評価されたよろこび、あるいは反省の機会を与え、次の機会に役立ててもらう。
◆試行例の評価
(1)課題の提示について
課題の説明において、情報伝達作品の制作が目的であって、グラフィックソフトの練習課題でないことを強調することが重要である。一般に、コンピュータやソフトの操作法を覚えることの方が目標としてとらえられやすいので、留意が必要である。
(2)作品の改善活動について
この学習課題では、評価に基づく改善活動を重視して、修正・改善作業まで行っている。コンピュータを利用した知的作業(情報表現作業)において、試行錯誤、字体やスタイルの変更や拡大縮小、複製などがきわめて容易であることは大きな特徴であり、この修正・改善作業は、情報教育の中ではぜひとも重視したい活動である。
試行例においては、少しの修正作業でその改善効果がみられる作品が多かった。とくに、改善効果がみられる項目は、わかりやすさ、アピール性、全体のバランスなどであり、発想のおもしろさ・独自性(オリジナリティ)には、あまり改善効果はみられなかった。
(3)所要時間について
今回の試行では、受講生はパソコンの初心者も多く、パソコンの基本操作やグラフィックソフトの使用法を説明したあとで実施したものである。作品の制作時間には個人差が多く、時間内に余裕をもって作成できた人もいたが、授業内ではたりずに自習時間を使って作成したものもかなり多かった。しかし、パソコンはさらに普及し、ソフトも使いやすくなることで、生徒の基礎的な操作能力が向上するので、現状よりはかなりの時間短縮が期待できると思われる。
(4)課題の応用性・発展性
もし、課題のための時間が少ないときは、ワープロを使った文章表現に限定すれば、より少ない時間で行うことが可能である。時間の余裕があれば、4枚にわたる4コマ作品、さらに画像や音声を取り込んだマルチメディア作品へと応用できる。すなわち、学習内容が、文章表現、グラフィック表現、マルチメディア表現と拡大することになる。また、グループで取り組む課題として位置づけることも可能である。その場合、個人作品よりも内容の充実がはかれることや、コンピュータ利用の協同学習へと発展させることができる点でも意義深いものとなる。
このように、この課題は、発展的な課題の準備となる基本的な学習課題としても有効性が認められる。
◆授業の展開

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