I. 大学の文系学部における情報関係の授業科目
はじめに
大学の文系学部で情報関連の専門学科(課程・コース等を含む)を設置する大学数は85大学で、その内訳は国立大学で30大学、公立大学が3大学、私立大学は52大学である。その入学定員は11,500人近くに達する。これを学部別にみると、教育学部24大学、経営情報学部19大学、商学部8大学、経済学部8大学、経営学部7大学、文学部(図書館情報学科)3大学、芸術関係学部2大学、商業経済学部と産業社会学部それぞれ1大学、教養学部1大学のほか、情報学部4大学、社会情報学部3大学、文化情報学部、情報文化学部、総合情報学部、情報社会科学部がそれぞれ1大学である。
情報関連の専門学科は教育学部(情報教育コースや情報科学コースなど)や、経営情報学部、商学部あるいは経営学部や経済学部に設置される場合(いずれも経営情報学科が中心)が多いが、芸術関係学部にも誕生している。また、情報学部や社会情報学部あるいは総合情報学部や文化情報学部のように新しい情報関連の専門学部の設置傾向にある。これら情報関連の専門学部や専門学科では当然であるが、情報関係の授業科目が数多く設定されており、高等学校のカリキュラムとの連続性の検討が必要になってきている。
この連続性の問題は情報関連の専門学部や専門学科だけに限らない。情報を専門としない学部や学科においても情報関係の授業科目が開講されており、高等学校の教科・科目との連続性について検討をする必要が生じている。
そこで、ここでは情報を専門としない文系の学部・学科として法学部法律学科と経済学部経済学科を、また情報関連の学科をもつ学部(学科)として経営学部(経営学科と経営情報学科)を事例として取り上げ、さらに新らしい学部として総合政策学部や社会情報学部を取り上げ、それぞれの学部・学科で開設されている情報関係の授業科目を調べることにした(「 」の中は各大学で開設されている授業科目名である)。その上で情報関係の授業科目内容や情報関係の新しい専門教育科目について考察し、担当教員の意見聴取等を参考に高等学校との接続の必要性について言及していくことにする。
資料は、全国の国立・公立・私立の大学60校にカリキュラムや履修要項等の提供を依頼した。法学部、経済学部、経営学部各16大学、それに新しく設置された学部及び情報関連学部12大学を任意に抽出した。回収できた49大学53学部の資料をもとに分析検討した。以下、その結果を順を追って述べることにする。
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1.法学部法律学科における情報関係の授業科目
法学部法律学科(調査対象ー12大学)で開講されている専門教育科目の中には、「現代情報法」「情報法」や「情報政策法」「情報通信法」のほか、「法学情報処理(論)」「コンピュータと司法統計分析」のような情報関係の専門科目を設けている大学がある。このほかにも1、2年生で履修させる授業科目として「情報処理学」「情報処理」「電子計算機概論」「電子計算機演習」「コンピュータ演習」「情報基礎論」などを開講し、これらの中から1、2の科目を必修ないしは選択必修で履修させる大学が多い。
なお、授業科目名には表れていないが、実際の講義の中で情報関連の内容を取り扱っていることが聞き取り調査で明らかになった。例えば「憲法」での情報公開制度やプライバシー権、「刑法」におけるコンピュータ犯罪や電磁的記録、オンラインシステム犯罪、「商法」や「民法」における契約システム、ペーパレス取引、情報事故における民事責任、さらには「著作権法」におけるソフトウェアの法的保護などがあげられる。
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2.経済学部経済学科における情報関係の授業科目
経済学部経済学科(調査対象--15大学)の専門教育科目を調べてみると、「情報経済論」「情報経営論」「情報管理論」「経済・経営情報処理」「経済情報ネットワーク(論)」などのほかに、「シミュレーションによる経済分析」「オフィース・オートメーション」「企業ネットワーク論」「電算機と情報処理」「科学技術と経済」「産業法」「情報と決定」「情報システム論」など情報に関係した専門教育科目が数多く開講されている。
そして、1、2年では「社会科学のための情報処理」「情報処理入門」「情報処理論」「コンピュータ入門」「基礎的プログラミング」「コンピュータ概論」「コンピュータ演習」「コンピュータサイエンス」のようにコンピュタに関する授業科目のほか、「情報社会論」「コミュニケーション論」「基礎情報科学」のように 情報関連の基礎的科目を学科の専門教育科目として開設し、必修や選択必修で履修させることにしている。
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3.経営学部における情報関係の授業科目
また、経営学部(経営学科及び経営情報学科--調査対象12大学)における専門教育科目を調べてみると、「経営情報学(論)」や「経営情報システム(論)」はほとんどの大学で必修科目であり、このほかに必修ないしは選択必修科目として情報に関連した授業科目が多数開設されている。それらは大きく3つのグループに分けてみることができる。
1つは、専門である経営学に情報科学や情報理論を取り込んだ新しい学問領域や分野の授業科目である。例えば「情報通信概論」「経営情報数学」「システム分析概論」「流通システム論」「情報通信」「企業情報通信システム」「経営情報史」「意思決定論」「経営モデル分析」「情報会計」「経営情報管理論(学)」「流通情報論」「会計情報分析論」「会計情報システム論」「情報会計論」「コンピュータ会計論」「マネジメントソフトウェア論」「マーケッチング情報論」「経済システム科学」「経営モデル分析」などがその授業科目名である。
次に情報社会や情報産業に関連した授業科目としては次のような専門教育科目が挙げられる。「流通産業論」「情報社会と経営」「情報環境論」「情報戦略論」
「オフィスオートメーション」「ファクトリーオートメーション」「情報関係法規」「現代と法」「法情報論」「情報ネットワーク論」「コミュニケーション論」「国際コミュニケーション論」「オートメーション論」「マスコミュニケーション論」「ビジネスコミュニケーション」「ハイテク産業論」「情報社会論」「情報と文化」「生活情報論」「現代企業論」「科学技術論」「ニューメディア論」などが調査対象校で開講されている授業科目名である。
3つ目はコンピュータないしは情報科学の領域に属する内容を専門教育科目としている授業科目である。この領域では1、2年(大学によっては2年前期まで)での履修科目と3年以降(大学によっては2年後期から)での履修科目に分けている大学が多い。1、2年の授業科目で多いのは、「コンピュータ入門」「コンピュータ概論」「コンピュータ演習」「プログラミング入門」「プログラミング論」「情報概論」「情報通信概論」「情報処理論」「情報処理演習」「電子計算機概論」「計算機システム構成論」「プログラム言語」「計算機言語」「システム分析の基礎」や「図書館情報学」などである。また3年以降では、「プログラム言語特講」「情報構造」「情報システム設計」「データベース(論)」「情報学(特講)」「システム開発論」「データ解析(特論)」「データ構造論」「情報理論」「情報処理特別講義」「情報科学特別講義」「シミュレーション論」「意思決定支援システム論」「モデル解析論」「データ通信」「人工知能」「計算機による問題解決」などを開講し、選択必修科目として履修させている。
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4.その他の学部・学科にみられる情報関係の授業科目例
まず、総合政策学部(慶應義塾大学、中央大学)を取り上げてみたい。2つの大学で開設されている専門教育科目の中には、「経営情報システム論」「組織コミュニケーション論」「国際コミュニケーション論」や「意思決定論」「情報政策論」あるいは「比較メディア論」「文化記号論」などの情報関連の専門教育科目が開講されている。また、1、2年の基礎的科目として「情報処理 I 」「情報処理 II 」(両大学共通)や「応用情報処理」のほかに、慶応大学では「言語と伝達」「比較メディア」「マスコミュニケーション」「対人コミュニケーション」「現代技術」「データ処理法」「現代と社会システム」などの情報関連科目を選択履修させることにしている。中央大学でも基礎科目群(総合教育)に「情報と社会」「工業化と技術」「科学技術と文明」などの情報関係の授業科目が開設されている。
このほかにも、現代社会学科(日本女子大学人間社会学部)では、「マスメディア論」「社会情報統計論」「コミュニケーション論」や「現代法体系」「現代経済論」などを専門教育科目として開設している。また日本文化部言語学科(明星大学日本文化学部)では、その一般教育科目の中に「コンピュータ科学」「情報と社会」「人間工学」「ハイテク産業と生活」「マスコミュニケーションと文化交流」などの情報関連の授業科目を開設し、さらに学科の専門教育科目にも「情報処理演習」(1年・必修)、「コンピュータ演習」(2年・選択)や「情報伝播論」(2年・選択必修)「マスコミ論」「記号論」(選択)など情報関連の授業科目が開設されている。
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5.情報関連の文科系学部における授業科目例
情報関連の文科系学部として社会情報学部(札幌学院大学は社会情報利用型モデル、大妻女子大学は社会生活情報専攻)と環境情報学部(慶応義塾大学)を取り上げてみることにする。まず札幌学院大学では、1、2年の専門指定必修科目として「情報処理」「情報学概論」(以上は1年)、「システム工学」「情報システム概論」「情報社会学」「社会情報調査論」(以上は2年)を、また2年の選択必修として「ソフトウェア概論」「ハードウェア概論」のほか「プログラミング言語 I ・演習 I 」「プログラミング言語 II ・演習 II 」(2、3年)などを履修させることにしている。3、4年では専門選択必修科目として、「社会情報調査実習 I ・ II 」「情報行動論」「情報メディア論」「地域情報論」「社会情報システム論」「データベース論」「経営情報論」「シミュレーション論」「知的情報処理論」「画像情報処理論」「情報システム設計論」「情報管理論」「情報ネットワーク論」が開講されている。
大妻女子大学では専門学科の共通科目として 「情報処理実習 I 」「社会情報処理論及び演習」(以上は1年必修)「ソフトウェア概論」(1年選択)のほか、2年では「プログラミンング論及び演習 I 」(必修)「社会生活情報論」「情報社会論」「コミュニケーション論」「マスメディア論」(以上は選択)、そして3年で「社会情報学特別講義」を履修させることにしている。また、同学部の社会生活情報専攻の専門教育科目(2年以上)には「情報行動論」「国際生活情報論」「生活流通情報論」「バイオテクノロジー概論」「社会情報調査及び演習」「マーケッチング情報論」「情報産業論」「社会生活関連法」「情報ネットワーク論」「世界経済情報論」などの情報関連の授業科目が開講されている。
環境情報学部知識情報コース(慶応義塾大学)では、専門基礎科目(2年後期から3年)として「情報メディア論」「情報社会論」「知識処理論 I 」「情報活動論」「環境情報システム論」「情報関連法」から選択履修させ、またコース系列の専門科目(3、4年)として「通信・情報理論」「情報処理系論」「情報環境論」「計算機能論」「パターン情報論」「知覚情報分析論」「情報分類検索論」「知識処理論 」「人工知能論」「インターフェース設計論」「コミュニケーションネットワーク論」「知識ベース論」などの情報関連の授業科目が開設されている。
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6.基礎的科目としての「情報処理」の教育内容
基礎的科目(主として1、2年生で履修)としての「情報処理」は講義と演習で行われているが、その学習内容は大きく「コンピュータの概要」「コンピュータ演習」「プログラミング言語」の3つで構成されている場合が多い。そこで文系学部の具体的事例として、法学部、経済学部及び総合政策学部を取り上げ、その教育内容の概要をみることにする。
法学部の事例として関西大学の場合を取り上げてみたい。同大学の法学部では「『情報処理論』講義ノート」(B5/86頁)を作成しており、その冊子に講義と演習の概要が記述されている。その目次は次ぎの6章から構成されている。
第1章 コンピュータの歴史と原理
第2章 プログラミングとシステム開発
第3章 データベースとネットワーク
第4章 社会科学とシミュレーション
第5章 プログラミング環境と操作方法
第6章 プログラム書法の基礎
付 表 フローチャート、組み込み関数表
次ぎに信州大学の経済学部の場合を取り上げてみる。「情報処理 I 」では基礎的なプログラミング言語を修得させ、汎用的なアプリケーションソフトでは対応できないカスタマイズされた問題や、小回りの利く解決を必要とする問題等について独自にプログラムを作成する能力の育成を図ることを目的としている。BASIC言語のインストールやコマンドメニューの使用法、ソースファイル操作、プログラムエディタ、実行手順、デバッグ方法、ヘルプの使用法、コンパイル手順、言語仕様、ステートメント及び関数などがその学習内容である。
「情報処理 II 」ではアルゴリズムを修得させることを目的にして、データ構造操作、サーチ、ソート、パターン照合、グラフ/ネットワーク、数値アルゴリズムなどを学習させることにしている。原語はBASICである。
このほかに「情報処理A」「情報処理B」「情報処理C」が開講されており、「情報処理A」では 、表計算ソフトを用いて経済学の各種理論、局面に適用することによりグラフィック表示機能による分析能力を身につけることを目標にしている。「情報処理B」では景気循環委モデルのシミュレーション、マクロ経済学シミュレーション、需要予測、在庫管理、線型計画法、動的計画法など具体的事例を対象に比較的規模の大きいプログラムを作成させることをねらっている。また「情報処理C」では、UNIXマシンを用いたネットワーク環境下での利用技術を修得させることを目的にしている。C言語入門、UNIXオペレイティングシステムの概要と実習、メールシステム、リモートログイン、WANアクセスの実習などがその学習内容である。
総合政策学部の例として慶応義塾大学を取り上げてみたい。1年生を対象にした「情報処理 I 」では、コンピュータリテラシーの修得とプログラミングを通した問題解決の基礎能力の養成を目標にし、「コンピュータに仲良くなろう」「コンピュータを道具として使おう」「簡単なプログラムが作れるようになろう」の3つの学習主題で構成している。
最初の学習主題「コンピュータに仲良くなろう」は講義で、その学習項目は、コンピュータと社会、コンピュータってどんなもの?、コンピュータシステムの仕組み、ビットとバイトー情報とその表現、コンピュータの利用環境を知ろう、データベースと情報検索、マルチメディアと仲良くなろう、コンピュータネットワーク、プログラミングってなあに、コンピュータサイエンス最前線、コンピュータの可能性と限界などで構成している。次ぎの学習主題「コンピュータを道具として使おう」は演習で、その内容は、登録・起動・終了・キーボード学習 、emacsの使い方、日本語入力入門、電子メール入門、電子ニュース入門、文書処理入門(日本語LaTeX )、UNIXシステム入門、ラップトップ入門、emacsの進んだ使い方、日本語LaTeXの発展、UNIXツール、シェルプログラミング入門などである。3つ目の学習主題「簡単なプログラムが作れるようになろう」は講義と演習で、はじめてのプログラミング、くりかえし、部品化と関数、入力と計算、場合分け、くりかえし再び、文字と文字列、アルゴリスム入門、グラフィックス入門などを学習内容とする授業構成である。
「情報処理 」は「電子文具を越えたコンピュータの使い方ーハイパーリテラシー」を修得させることを目的にして「C言語プログラミング」「統計」(S言語による統計解析)「プログラミング」(Lisp) 「システム」(UNIXとそのプログラミング環境)「ネットワーク」「応用ソフトウェア」「グラフィックス」「アート」「データ処理」「アルゴリスムとデータ構造」「論理言語」(Prolog)などの科目から選択学習させる授業構成をとっている。
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7.大学における情報関連授業科目からみた高等学校との接続
文系学部・学科における情報関連科目のうち、基礎的科目として開設されている「情報処理」について担当の教員の意見によると、コンピュータ習熟度の学生による個人差が大きく、また全般に論理的思考や問題解決的手法、情報や情報機器に対する態度(マインド)が不十分との指摘があった。専門授業科目での十分なコンピュータ活用にまで円滑に発展してない現状がある。コンピュータ活用や情報活用の教育について高等学校(中学校も含めて)でのあり方やその接続を検討する必要があると考える。
また文系学部・学科では新しい情報関連の専門科目として「情報経済学」「経営情報学」や「情報産業論」、「情報法学」「情報関係法規」「情報政策法」あるいは「情報社会学」「情報社会論」「情報文化論」「情報伝播論」「生活情報学(論)」、また「情報メディア論」「ニューメディア論」「国際(組織)コミュニケーション論」など授業科目が数多く開設されてきている。これらの学問や研究内容(論)には生成過程のものもあるが、かなり輪郭が見えてきている。こうした学問やその領域(論)の基礎になる基本的概念やその捉え方については高等学校段階で学習できるようその接続を配慮する必要がある。
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