II. 教育現場へのアンケートの実施と分析


 以上のような検討の後、具体的な内容項目リスト及び、複数の章立ての試案を示し、教育現場の高校教師を対象にアンケート調査を実施した。アンケート調査は、文系の案についてだけでなく、情報教育のカリキュラム全般について行われたが、そのうち、本カリキュラムに関連する部分について、述べる。

 回答は、72名から寄せられ、その内訳は教育センターの情報教育担当者(18名)、高校の情報教育担当者(31名)、それ以外の高校教諭(14名)、その他(1名)であった。




 1.教育現場での準備状況

 本カリキュラムでは、コンピュータを道具として、学習場面で活用する環境が整備されていることを前提として学習内容や学習課題が構成されている。この点について現場ではどの程度の環境が整いつつあるのか。【表1】および【図1】は、コンピュータによる演習課題について、別に、実施できるハードウェア、ソフトウェア環境が整っているかを問うたものである。


【表1】コンピュータを活用した演習に対する整備状況
現在可能近い将来可当分不可
ワープロで文書作成・レポート提出4793
コンピュータグラフィックスで作品作り42710
表計算ソフトで課題解決4495
データベースで資料検索271912
パソコン通信で情報交換151924





 【図1】コンピュータを活用した演習に対する整備状況(%)

 ワープロや表計算などについては、90%以上の学校で、利用できるように整備されているが、通信については、当分の間不可能と答えている学校が20%以上ある。しかし、これは、インフラの整備に関することであり、ここ数年のうちに、急速に改善されるものと考えられる。


 これらのうち、現在可能および近い将来可能と答えた学校について、いわゆる進学校(アンケート調査により、大学進学を特に重視していると答えた者 27名)とその他の学校(ここでは普通校と呼ぶ 25名)とに整理してみると、【図2】のようになる。普通校ではワープロ、グラフ、表計算の利用環境が、近い将来を含めると100%と回答しているのに対し、進学校では、60%以下の学校もあり、道具としての活用の整備が遅れていることがうかがえる。



 【図2】普通校・進学校別の施設設備の整備状況


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 2.文系理系を分けてカリキュラムを開発することに対する意味

 文系カリキュラム開発の前提となる理系、文系を区分し、「文系の大学進学する生徒に配慮された情報教育のにカリキュラム」を設定することについての賛否は、【表2】のとおりである。


【表2】文系の大学進学する生徒に配慮されたカリキュラムの必要性
はいいいえ
文系の大学進学する生徒に配慮された
情報教育のカリキュラムを設定すべきか
4815


文系のカリキュラムを独自に開発すべきと考える教師は、全体として74%に達するが、これを進学校・普通校に分類整理したとして、それほど著しい相違点はない。これらの理由については、それぞれの回答者が文章で意見を寄せている。その内容については、教育現場の意見がよく示されていると思われるので、そのまま掲載する(はじめの番号は、回答者番号)。


 【質問】
 文系の大学に進学する生徒に配慮された情報教育の教科内容を準備する必要があると考えますか。


 「準備する必要がある」の意見

 「特に準備する必要はない」の意見
 その他

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 3.文系の大学の進学者にどのような情報活用能力の育成を必要と考えるか

 文系の大学に進学する学生に対して、高等学校では、どの程度の情報活用能力を期待するかという質問に対する回答は、【表3】のとおりであった(数値は、回答数)。

【表3】文系の大学の進学者に期待されるな情報活用能力
そう思うどちらともそう思わない
(1) コンピュータのプログラミング
 をして問題解決ができる
41924
(2) ワープロや表計算などのソフトを
 利用して問題解決ができる
3774
(3) 情報システムの仕組みや情報
 科学の基礎的知識を理解する
221510
(4) 経済や日常的なことに対して
 論理的に物事を整理して捉える
3791
(5) 情報化社会がもたらす社会の変化や
 構造について理解できる
3872
(6) メディアやコミュニケーション
 の道具を使いこなせる
27146


 これらのうちのデータについて、期待の高い順にソーティングし、グラフに示すと、次頁の【図3】のようになる。



 【図3】文系の大学の進学者に期待されるな情報活用能力(期待の高い順)

 このことから、文系に期待される能力としては、単にワープロや表計算、コミュニケーションツールの使い方ではなく「情報化社会のしくみや社会の変化」、「日常的な問題解決における論理的な整理」などの内容を持った知識や技能の育成に期待が多いことが明らかである。

 したがって、文系のカリキュラムにおいても、主題を明確にし、期待される学習活動と、目標との対応を明確にしたカリキュラムを提案することがより重要であると考える。
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