2−2 文系のための情報教育


 まえがき

 情報教育に関して、情報科学を中心とした専門科目の他に、文系の大学に進学する学生のための情報学を中心にした専門科目が必要という考えは、多くの研究者が賛同するところである。すでに、情報社会学や教育情報学、芸術系の情報に関する学科も設置されるようになってきており、今後もこの傾向はますます拡大するであろう。情報理論や情報科学を基礎としておきながらも、社会学的観点やコミュニケーション理論、デザイン技術などの設計学と情報技術とを複合したような基本的内容、コンピュータ技術の利用を前提とした課題演習やシステム思考、制作活動などがこの内容として考えられる。しかし、そのなかで具体的にどのような内容を取り上げるか、どのように体系化していくかについて共通のイメージができあがるまでには、もう少し時間を必要とする。そこで、本カリキュラムを検討するに当たっては、理念的な原則を整理する一方、具体的な学習課題や、達成されるべき知識・技能・態度をリストアップして両面から具体化するという方法を採ることにした。

  文系のカリキュラムの検討にあたっては、つぎのような手順で行った。

  I. 文系の情報に対する基本的な考え方の検討
  II. 教育現場へのアンケートの実施と分析
  III. 章だての提案と内容項目のリストアップ
  IV. 学習課題と学力項目
  V. 具体的な授業案の提案と試行

 以下に、その経過を示すことにする。


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 I. 文系の情報に対する基本的な考え方の検討


 1.文系の情報の基本的な考え方

 はじめに、本カリキュラムを考えるに当たっての、基本理念を整理した。

・教科名:情報
・科目名:文系情報 IB(仮)
・ねらい:第2部の”教養としての情報”の発展型、文系としての専門性を明確にする。具体的には、将来、大学の文系に進みたい生徒が、その専攻分野で情報科学・技術がどのような役割を果たしているのかを展望できるようにする。




 2.目指すべき学力

 まず学力観として、課題解決力、創造力、理解力、技術力、態度・習慣の5つを取り上げ、これをさらに、(a)知識理解、(b)概念把握、(c)技術習得、(d)習慣・態度形成の4つに分け、これら(a)ー(d)を具体的に目指すようにする。

 (a)理解すべき情報知識
 情報が当然のごとく扱われる場での情報の流れ、情報の果たす役割、情報に対する信頼性の確認の仕方と情報源の確認の仕方、情報の収集・加工・分類・活用法、ドキュメンテーションの書き方、情報機器の機能など、コンピュータに関する知識など。

 (b)把握すべき情報概念
 現代情報科学の基礎(考え方)、情報文化論、情報社会論、情報経済論、情報経営学、情報法学などの学問の基本的な考え方、情報の形式(アナログとディジタル)、人と動物における情報行動、情報に関するモラル、情報の信頼性、コミュニケーションと情報の関係、情報化時代の哲学など。
  
 (c)習得すべき情報機器技術
・統計処理技術、、報告書の作成(DTP,レイアウト)、表計算ソフトなどの利用技術、ネットワーク利用技術、データベース検索技術など。

 (d)形成すべき情報態度・習慣
・出所の分からない情報やデータをまず疑う態度を持つ。
・データを得る前に行われた計測や調査がどのような条件のもとで行われたかを確認する態度を持つ。
・視座や視点を与えられたものだけに固定せず、自分でいろいろな視座や視点を設定してみるという態度を持つ。
・与えられた条件のもとでの情報表現を鵜呑みにせず、自分でいろいろと表現法を変えて、新たな情報に気づく可能性がないかどうか検討する態度を持つ。
・パブリックな情報とプライバシーが関わる情報の配慮
・聞く人の立場に立って、分かりやすく伝える努力を払うこと。
・自分の作成した作品や提案に対して、改善情報を求め、よりよいものに修正する態度を身につける。
・他人の作品や提案に対して、良い点はほめ、悪い点は改善情報を提供するようにする。
・自分の経験から得たノウハウなどを文書や電子情報の形でのこし、次の機会に役立ててもらうよう心がける。



 3.教育の方法

 以上の4つの目標を、有機的に結合して、総合的に達成するために、情報機器の活用を含む課題解決を行わせる。このために、カリキュラムの中に、課題研究をいれることが、一つの方法として考えられる。この場合、「体験させるべき情報課題解決」としては、次のようなものがある。

・自分の興味のある分野において、一つの目標を設定し、その目標の実現に向けて情報を集め、整理し、情報を自分の目的に合致したものにまとめて、発表する。

・情報に関して、関心のあるテーマを設定し、実態調査を行い、得られた知見を報告書にまとめる。さらに発表会で公表する。

・発表や報告書の作成には、情報関連機器を活用する。

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