3 高等学校における実践

 

A.大阪府立四条畷北高等学校における実践

1.情報環境

(1)コンピュータ
 生徒用:NEC PC-9801RX21(HDなし,RSX640K)
 教員用:NEC PC-9801RX51(HD40MB,RSX3M)
      Macintosh Performa575(HD160MB,RSX8M)
(2)台数
 生徒用:1教室48台
 教師機:NEC,Macintosh各1台

(3)配置
 情報教室(元物理講義室を改造した教室)

(4)ネットワークの形態
 本校では,NEC製教育用LANシステム(PC-SemiLA)で,MS-DOS拡張BRANH4670IIを利用している。このネットワークシステムは,教育用としてNECが独自に開発した教室内だけに張られているローカルネットワークであり,イーサネットではない。また,データ転送とは別系統として,ディスプレイの画面を転送する画像LAが張られており,1台のコンピュータの画像をすべてのコンピュータのディスプレイに送信できる機能をもっている。

(5)サーバ
 サーバはない。(教員用コンピュータには,ファイルを送受信する機能が付加しているが,サーバではない)

(6)アカウント
 学校としてインターネットのプロバイダに加入し,ダイアルアップでインターネット接続している。

(7)その他
 本校は,文部省・通産省で現在進めているネットワーク利用環境提供事業「100校プロジェクト」の対象校となっていないため,ネットワーク教育のための特別な財源はない。平成7年度,本校のインターネット維持費に充てられた予算はわずか5万円であり,ダイアルアップでの接続料や通話料を支払うだけでも財政的に苦しい状態である。現状では,一部の地域を除いて,学校単位でインターネットに接続する場合,商用プロバイダと契約するしか方法がない。地方自治体や公的な教育研究機関がホストとなり,低額費用でインターネットに接続できるようなシステムの確立が望まれる。

2.支援体制

 学校外からの恒常的な技術支援は受けていない。ただし,インターネットの導入に当たっては,すでに設置している大学や本校の保護者でインターネットに詳しい関係者からアドバイスを受けた。また,本校はダイアルアップでの接続であり,サーバの管理はプロバイダ側で行うので,技術的には苦労することなく接続できる。学校のネットワーク環境の運用は,インターネットを利用する校内の教員が互いに情報交換を行い,共同で取り組んでいる。
 教育的な側面からも,特定の外部からの支援は受けていない。ただし,インターネットを利用する各教科の教員が所属する研究会や学会,また教育に関するメーリングリストやパソコン通信の教育フォーラムなどに積極的に参加し,ネットワークの教育的活用についての情報交換や研究を行っている。

 本校は普通科高校であるが,昭和60年から情報教育に取り組んでおり,通常商業高校で行われる情報教育関係の科目である情報処理,文書事務(新教育課程では,情報処理,文書処理)が3年生の選択科目として開講されている。生徒の興味は高く,情報処理Tは毎年6〜7割の生徒が履修し,文書事務も3割程度の生徒が履修している。この情報教育の実績が,ネットワーク教育実践への足がかりとなり,後述する複数科目との連携による取り組みへと発展した。そこでは,1つの教科だけでなく,さまざまな教科が共同でネットワークを利用してきたことが,校内財政が厳しいなかで,インターネット接続料などの予算が少ないながらも公的に認められた要因となったと思われる。

3.実践の意図

1)教師の意図
 今日の実践に至るまで,本校の情報教育は情報関連科目である情報処理,文書事務の授業のみで実施されてきた。具体的内容としては,情報処理では主としてグラフィックスを教材にしたBASICプログラミング学習,文書事務ではワープロソフト操作技術を中心にした授業を行ってきた。しかし,今日の社会における情報教育の役割は,職場や家庭生活のさまざまな場面に広く浸透してきており,従来の情報処理教育に代表されるコンピュータ言語などの学習だけで対応できるものではない。そこで情報教育をもっと広い視野から捉え直し,情報関連以外の教科,例えば,英語や社会などの授業と連携してグローバルなカリキュラムのなかで展開させていくことをめざしている。
 また英語科は,英語学習の動機づけや,実用面でも役に立つ内容を取り上げるためにも,英語圏の学生など若者とネットワークなどのメディアを通してコミュニケーションを図り,生きた英語に触れさせることを目的とした。
 社会科もこれからの情報社会で必要とされる情報発信能力を育成するために,例えば生徒自らが地域を取材・調査するような題材を提供し,それらをまとめ成果を発信する機会をもつことをめざした。

2)具体的な方略
 情報科(前述した情報処理,文書事務),英語科,社会科の教員が連携して,国際交流に関するカリキュラムを作成し,年度当初の授業導入の時期に今回紹介する授業を組み入れて実施した。

(a)授業の準備段階 

 平成6年度段階では,大阪には低額でインターネットに接続する商用プロバイダがなかったため,パソコン通信の利用を行った。大手BBSであるNiftyServeが米国のCompuServeと接続していることに注目し,連携授業を行う教員の一人が両者に加入した。また交流の相手校を見つけるため,平成6年3月CompuServeのEducationForums の掲示板を利用して公募し,交流校を見つけた。次にこの国際交流の全体的な授業内容と授業展開を設計し,各科目に分担した。交流の内容は,まず自己紹介から始まり,学校紹介,次に地域の歴史や文化の紹介へと発展させていくことにした。交流の手段としては,上記パソコン通信を利用して,電子メールを交換することによって実施した。まず,米国の相手校と自己紹介の交流を行うため,英語と情報の科目を共通して選択している生徒群に対し,どのように授業を連携すればよいかを探り,具体的な授業実施計画を立案した。【図3-3-1】のように,電子メールの送信と受信の学習過程を各科目に分けて実施し,この送信と受信を繰り返して交流を進めることにした。

【図3-3-1 科目を連携させた国際交流授業の展開】

(b)授業の実施段階 

 一連の国際交流の学習内容を別々の授業の中で分担して行うため,情報科,英語科,社会科に所属する3人の教員が緊密な連携を図る必要があり,生徒の学習進度や学習意欲,理解状態に関して情報交換を頻繁に行った。

(c)授業の評価段階 

 この一連の授業は,各教科の導入段階における動機づけを目的としたため,生徒が交流授業に積極的に関わったかどうかを各教科の視点で評価した。また,この連携授業自体の評価は,生徒に書かせた感想文や,アンケートをもとに行った。

4.学習活動

(1) 学年
 3年生の文系選択者。ただし,大学や短期大学に進学する生徒は少なく,ほとんどの生徒が就職するか,あるいは実務的な専門学校に進学する生徒である。

(2) 教科,教科外など
 前述したような国際交流の内容を,情報処理,文書事務,英語Aの授業に分担し,連携を保ちながら行った。

(3) 単元,領域など
【表3-3-1】は,この実践が行われる以前に本校が単独の科目で授業を行っていた時に実施していたものである。そこで各科目の下線部分の学習内容を,この国際交流授業の中で行うことにした。

【表3-3-1 連携する科目の単元と指導内容】

(4) 具体的活動
 具体的には,【表3-3-2】のような授業展開で行った。

【表3-3-2 各科目における指導内容と授業進行の連携表】

*1,*2 は,この実践では,学校に通信機能を有するパソコンがないため,教師が個人的に所有するパソコンで行った。

 写真【図3-3-2】【図3-3-3】は,この国際交流授業に参加した本校の生徒と,米国の生徒の授業風景である。米国では,情報教室内のコンピュータの配置がゆったりとしていることがわかる。また,生徒が各自のペースで課題を進めている様子がうかがえる。

【図3-3-2 国際交流を行った生徒と情報教室】 【図3-3-3 交流したの米国の高校生と情報教室】

5.成果と課題

 本実践は,平成6年4月から開始したが,米国の生徒が6月初旬に卒業を迎えたため,5月末で終了した。その結果,両校の生徒間での電子メールの文通は,2往復で途切れた結果となり,生徒の自己紹介を終え,学校紹介の一部まで行うことができたが,地域の紹介まで進むことができなかった。したがって,社会科との連携授業の内容までは実施できなかった。しかし今回のネットワークを介した外国の生徒間での交流が終了した後に,本校の生徒たちの感想文をもとに,次に示す8項目の内容について調査した【表3-3-3】。結果より,今回の国際交流の授業により,生徒たちの学習意欲知識理解面など教育効果面で今後大きな期待がもたれることがわかった。

【表3-3-3 感想文の内容別集計】(生徒数37人)

  (1) 〜(4) までの項目を記述していた生徒が多かったことを考えると,この情報科と英語科とが連携したこの国際交流授業の実践は,今後それぞれの科目をさらに深く学習する上での動機づけとしての役割を果たしたのではないかと考える。
 交流を終えて約1カ月後に,この授業に関するアンケート調査を行った。その結果を【図3-3-4】に示す。このアンケート結果からも,交流授業を通じて,生徒は通信ネットワークに興味を持ち,コンピュータや情報という言葉に関して,それまでとは異なった新しい見方や興味を示すようになったことがわかる。また今回のように複数の教科による連携した授業形態を8割以上の生徒が,肯定的に受け入れていることがわかった。
 本調査を通じて生徒のいくらかは,文字だけの交流ではものたりなさを感じている生徒がいる点が課題となった。平成7年度に入り,大阪地域にも低価格で接続可能な商用プロバイダが現れたのをきっかけに,本校では学校として加入し,平成7年9月にホームページを開設した。そして平成8年1月からは,ハワイ,韓国,沖縄などの高校11校と,毎月テーマを決めて相互の意見交換をホームページ上で行うプロジェクトをスタートさせた【図3-3-5】。

【図3-3-4 交流授業実施後のアンケート調査結果】(生徒数37人)

【図3-3-5 ホームページを利用した生徒の情報発信】

 今後,国際交流を本格的に継続,発展させていくには,本校のネットワーク環境は充分であるとは言えない。現在,情報教室には1台のパソコンが公衆回線に接続されているだけであり,生徒用のパソコンは古いDOSマシンだけである。生徒自身でメールを発信させ,ホームページを作成させたいと考えており,ネットワーク対応のコンピュータの導入と,接続環境の整備が早急に望まれる。しかし,理想の情報環境を具現化するためにも,今回報告した本校の西野和典先生の取り組みの経緯より推測できるように,限られた情報環境や予算においても,生徒の立場にたった日頃からの教育実践に対する意欲や新しい知識習得に対する努力に加え,管理職を含めた周囲の教員からの信頼が大切であることがわかる。

(林 徳冶:京都教育大学)


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