(a)本校は大学の附属学校でもなく,また百校プロジェクト参加校でもないので,設備面で特別恵まれた環境にあるわけではない。いわば普通の公立中学校における実践事例である。
(b)インターネットの利用目的が明確である。その第一は,技術・家庭科のカリキュラムに位置づけられ,その目標達成のために利用されていることである。第二に,本校が鹿児島県北部の離島に位置しているため,そのハンディを克服し,生徒の目を世界に向けさせるという目的も併せもっていることである。
2)具体的方略
技術・家庭科の究極の目標は「進んで工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる。」ことである。一方「情報基礎」の目標としては「コンピュータの操作等を通して,その役割と機能について理解させ,情報を適切に活用する基礎的な能力を養う。」とある。すなわち,情報活用能力の育成を求めている。本校ではその情報活用能力を「実生活での情報を扱うセンス」と広義にとらえている。
ところで,従来の指導計画では,「アプリケーションの活用」で,ワープロの基本操作を学ぶために自己紹介カードを作りましょうとか,「プログラミングの学習」をするためにBASICでグラフィック作成をしましょうという,本末転倒ともいえる流れがあったように思われる。
しかし,これでは生徒の作品づくりは授業のための作品制作になりがちで,実生活と結びついた学習活動とはいいがたい面がある。そしてそれが,生徒の意欲的な学習を妨げる要因にもなっている。また,一方で「アプリケーションの活用」と「プログラミングの学習」に関連を持たせることも難しかった。何のために「プログラミングの学習」が必要なのかが見えなかった。
そこで,「インターネットを活用し情報発信をする」という全時間を通しての目標を設定し,そのために必要な要素として,ワープロによる文書作成,グラフィックの作成,写真やビデオ画像のデジタル化,著作権などについて実践的に学ぶように計画した。なお,プログラミングについては,アプリケーションの活用で作った作品をインターネットのホームページに仕上げる際に「HTML言語」を用いることで関連を持たせるという工夫をした。単元の展開については,次節で述べる。
そして,このような活動によって実際にネットワーク社会を体験し,教室の壁を越えた学習展開が実現でき,そのことから生徒の視野を世界に広げることが可能である。
さらに,このような授業展開になると,生徒は主体的に動かざるを得ず,教師の立場も生徒のサポート役になる。この考え方は新しい学力観に立つ授業構成につながるものと考えられる。

(a)自分たちが作ったHPをたくさんの人にみてもらっていることがわかって,とってもうれしかったです。私は,HPを見た人が東町に行ってみたいなあと思ってくれたらいいと思っていたので,感想の中に「東町に行ってみたい」とか「ブリやみかんを食べてみたい」などの言葉があったので,これもまたうれしく思いました。たくさんの人たちの感想を見て,HPを一生懸命作ってよかったと思いました。感想をくださった方々はもちろんのこと,他にもHPを見て下さった方々に,私は感謝の気持ちでいっぱいです。
(b)世界中の人々がHPを見てくれて,1日に平均10通ぐらいの返事が届いているのにびっくりしました。しかし,返事をくれる人は,日本語がわかる人だけだったと思う。英語などしかわからない人にも見てもらいたい。三月に卒業しますが,自分たちのHPを作ったことは,中学生活の一番の思い出だと思います。
このように,自分達で実際に世界に向けて情報発信し,それへの反応が各地から自分達に寄せられたことによって,世界の中の自分達であることを意識できたようである。また,最初はいわゆるネットサーフィンに驚き興じていた生徒達が,情報を受信することよりも発信することのおもしろさや喜びに気づいたことも一つの成果である。このようなことから,前述の「教師の意図」は概ね達成されたものと筆者は考えている。
2)今後の課題
実践の結果,担当教師が指摘した問題点のうち,今後他の学校でも問題になると予想されることを,今後の課題として提起しておく。
(a)インターネットが利用できる環境の整備
これには,コンピュータの整備と通信回線の整備の両面がある。たとえば鹿児島県の場合は比較的早い時期からコンピュータが導入されているが,それだけに現在の新しいコンピュータに比べれば機能面で劣っており,インターネットに接続することができない。本校の場合も設置されている機種は古いため,担当教師個人の物や借り物のコンピュータを利用せざるをえない状況にある。
また,各学校に電話回線が1本しかない現状では,インターネットへの接続で回線を長時間ふさぐことには無理がある。前述のようにこの実践ではWWWサーバとして,鹿児島大学内のサーバを利用することでこの問題点に対処したが,それで外部からのアクセスは便利になっても,本校からのアクセスは,やはり電話回線を通すという不便さには変わりはない。今後,インターネットに接続可能なコンピュータの導入と,質のいい通信回線の整備とが望まれる。
(b)インターネットの教育利用についての啓蒙
本校の場合,校内の教師の「インターネットの教育利用」への理解は概ねなされたようである。しかし,一般的にはまだ「いったいインターネットが何の役に立つのか?」と思っている教師がいることは否めない。インターネットの教育利用を普及させるためには,それについての研修や情報交換など,適切な啓蒙活動が欠かせないものであると考えられる。
終わりに,実践例を提供された辻慎一郎教諭に深甚の謝意を表します。また,特に技術面で支援された鹿児島大学教育学部三仲啓助教授と同大学院教育学研究科生高山一樹君に感謝します。
参考文献
(園屋高志:鹿児島大学教育学部)