B.金沢大学教育学部附属小学校の試み

1.情報環境

(1)コンピュータ (2)台数 (3)配置
Macintosh LC63020台コンピュータルームに集中配置(児童用)
  〃    5台コンピュータルームと教科準備室に分散配置(教師用)
Macintosh PowerBook520C10台状況に応じて各所で使用(児童・教師用)
Pioneer MacMPC-1003台図書室マルチメディアコーナーに設置(児童用)
  〃    7台教科準備室に分散配置(教師用)
Fujitsu MARTY10台 図書室マルチメディアコーナーに設置(児童用)
Panasonic 3DO-REAL10台状況に応じて各所で使用(児童用)

(4) ネットワ−クの形態
 金沢大学基幹LAN(KAINS)の一環として192Kで常時接続。コンピュータルームの20台と図書室の3台は常にインターネット接続で,授業時間以外は児童に開放している。

(5) サ−バ
 基本的には教育学部のWSをサーバとするが,WWWサーバおよび児童用Nameサーバを学校内ホストでたちあげる予定。

(6) アカウント
 児童用メールアカウントに関しては現在検討中。

(7) その他のコメントなど
 コンピュータの導入に際しては,コンピュータそのものを入れるというのではなく,マルチメディア環境を導入するという考え方で設計した。従って,同時にマルチメディアを用いた子どもの自己表現のために,デジタル静止画像を撮影できるカメラ,動画収録用のハンディタイプのビデオカメラ,音楽学習用のソフトと音源付きキーボードを各10台ずつ導入した。また,それらを子どもの要求に合わせてさまざまな場所での学習に使えるように,ノート型パソコンも購入した。
 また,コンピュータルームに設置した全てのデスクトップ型パソコンのモニターでは,ハイビジョン映像をハイバンド規格のまま見ることができるようになっている。それに伴い,ハイビジョン映像の録画用デッキ(上位互換のため,VHS,S-VHSも再生・録画可能)も同時にシステム化した。この結果,コンピュータルームは,単に情報教育のための部屋ではなく,ハイビジョンを個別に視聴(至近距離で見るという意味)できる視聴覚室の役割をもつことになった。
 コンピュータルームにおけるパソコンの設置は,壁沿いにコの字型になるようにした。このことによって,幸い通常の教室よりも広い面積が取れたこともあって,教室中央にスペースができる。そこにキャスター付きのテーブルを配置した。授業者は,教室を1周することでコンピュータを操作する子どもたちの様子と画面を観察することができ,また一斉に指導したい場合は中を向かせて中央の机でノートを取らせるようなこともできる。

2. 支援体制

 機器全体の仕様策定の為の案は,教育学部附属教育実践研究指導センターの専任教官(吉田貞介,黒上晴夫)と附属小学校の担当教官が作成した。その後,附属小学校に情報専科の教官が配属されたため,ネットワークに関わる様々な設定や登録作業は,実践センター教官と情報専科の教官(小林弘二)が共同で行った。
 授業については,概ね情報専科の教官が立案,実施しているが,必要なときは実践センター教官が支援している。また,ネットワークを用いた交流を行う場合など,学校外の機関や人々と連絡を取り合う必要が出てくるが,この方面では,長岡技術科学大学でたちあげているメーリングリスト(infoedu)のメンバーから様々な支援を仰いでいる。

3. 実践の意図

1)教師の意図
 基本的な方針は,子どもたちに自由に触らせる中でリテラシーを獲得させるということである。コンピュータの操作に関しては,基本的な部分のみの指導とし,それも一斉指導のみで行うのではなく,早く習得した子どもから,他の子どもへの知識の伝播を期待する。子どもは実際に解決したい問題に当たってはじめて,自分の問題として新しい操作を欲求するものであり,その時に周りの子どもから必要な操作法を聞き出すことで,最も効果的に操作を覚える。教師は常に全員にとって新しい問題にのみ個別に対応していくことで,だいたいの指導は行える。
 リテラシーに限らず,子どもたちが直面しているトピックに対しても,あまり積極的に指導はしない。子どもから,やりたいことが次々に提案されるような展開を目指している。

2)具体的方略
 コンピュータの基本の部分,すなわち,絵を含む情報を作ったり加工したりして,それらを結びつけることができるということを理解させるために,最初に2枚のカードからなるハイパーカードのスタック「パタパタアニメ」から導入した。これは,2枚の連続する絵をつくり,それを交互に出すことで動きやストーリーを表現しようというもので,東京の刈宿実践からヒントを得ている。
 子どもたちの間で,自然に知識の伝播が行われるように,コンピュータは基本的には常時開放している。その結果,学年の区別なく,知っている者が知らない者に使い方を教える光景が,日常的に見られるようになっている。
 そんな中,ネットワークの設定などを勝手に変更できる子どもも出現し,授業での利用に差し支える事も考えられるので,現在の所,システムなど変更されると困る部分をブロックするために,AtEaseを用いて制限をかけている。ただし,今後様子を見てはずすこともあり得る。ただ,このブロックのおかげで,安心して開放できるという側面も否定できない。

4.インターネットでの情報交流:「インターネットでコンニチワ」の概要

 4年情報教育の単元として,教科の枠を超えて設定した。教育関係のメーリングリストを通じて探し出した,オーストラリアの大学の日本語教育担当講師を介して,当地の小学生たちとCU-SeeMeを使って会議をする。言葉は日本語が中心である。翻訳はその講師と,彼のアシスタントが行ってくれた。子どもたちは交替で質問をしあったり,学校生活や街の様子について発表したりする。事前に,子どもたちは金沢の様子を知らせるハイパーカードのスタックやクラリスワークスの書類を作っており,それらを送ってある。
 11月24日に1回目の交信を実施した。その時のCU-SeeMeの操作は教師が行った。回線は1本で,画面はコンピュータルームの全面100インチのスクリーンに投影して,全員で視聴した。子どもたちは数人が各班を代表して質問にたった。
 その後,オーストラリアは夏休みに入ったため休止中だが,休みが開ける2月以降,再開の予定である。今後は双方のホームページ上に交流用の情報を公開していきながら,会議の質を学習のレベルにもっていく予定である。


【図3-1-7 Cu-SeeMeを用いて和歌山附属小と交流】

                        【図3-1-8 和歌山附属小から送られた情報を見る】

 オーストラリアとの交信が休止中,平成8年1月18日に,和歌山大学附属小学校とCU-SeeMeで情報交換を行った。それぞれの特産物や方言などの発表が行われた。金沢192kbps―和歌山128kbpsなので,当初計画した5セットずつの交信は非現実的だということで,CU-SeeMe2セットで,2つの班に分かれて交流した。さらに1月25日に2回目の交流を実施した。
 操作も自分たちで行ったため,1回目はつながって音声・映像のやりとりができるだけで大騒ぎをしていたのだが,2回目は内容的にも充実した交信になった。交信の前日には班に分かれて交信内容を計画,制作する時間も設定された。その中で作られた作品を図に示す。
 2月に九州,北海道,和歌山,金沢の4カ所での交流を計画中である。

 
  【図3-1-9 和歌山からの情報】    【図3-1-10 金沢からの情報】

5.成果と課題

 子どもたちが自分で使う形でインターネットを使い初めてそれほど時間は経っていないが,CU-SeeMeをはじめとして,自然にWWWの検索などを行っている。休み時間や放課後もコンピュータを開放しているため,まさに興味のあるテーマで必要な情報を集めている姿を,常時見ることができる。
 課題は,現在情報教育として行っているこれらの活動を,どのように日常の教科の授業と結びつけていくかということであろう。ただし,それを教師からの指導で行うのではなく,子どもたちが自分で関連づけるような展開を仕組むことを考えなければならない。

(黒上晴夫:金沢大学教育学部)


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