1 小学校における実践

A.ホームページの活用を中心とした取り組み

 

−横浜市立本町小学校(100校プロジェクト)の事例−

1.情報環境

(1)コンピュータ     IBM PS/Vシリーズ,NEC PC9801シリーズ
(2)台数         54台(うち15台がネットワークに接続されている)
(3)配置         各学年のワークスペースを中心に分散配置されている
(4)ネットワークの形態  校内LAN,64Kbps専用回線でインターネットへ接続
(5)サーバ        WWWサーバ,メールサーバ
(6)アカウント(ID)   グループID,個人IDも一部あり(特定クラス)
(7)コメント
 昭和60年度に15台のコンピュータが導入され,平成元年度に20台のコンピュータを追加導入,平成6年度にもマルチメディア対応のコンピュータ15台が追加導入されている。平成元年度の追加導入を期に,各学年のワークスペースに日常的に分散配置されるようになり,各教科で様々なコンピュータ活用が行われてきた。また,同時期に電話回線を確保し,パソコン通信を利用した実践に取り組み始め,校内にパソコン通信のホストも立ち上げている。平成6年度の追加導入では,合わせて校内LANの敷設も行われ,一部のコンピュータがネットワークに接続された。また,平成6年度に100校プロジェクト対象校に選ばれ,平成7年度よりインターネットの教育利用に取り組んでいる。なお,平成7年度には,全国小学校社会科研究協議会神奈川大会会場校にもなっている。

2.支援体制

 システムを導入した企業及び100校プロジェクト関係協力者の若干の支援の他,ほとんど技術的な支援は受けていない。

3.実践の意図

1)教師の意図
 オープンスペースへのコンピュータの分散配置によって,子どもたちがいつでもどこでも自由にコンピュータを活用できる情報環境の充実に努めている。カリキュラムも各教科において個別学習やグループ学習を取り入れたものとなっており,子どもの興味・関心に応じたコンピュータの活用が行われている。スタンドアロンのコンピュータでは,従来からの道具としてのコンピュータが多様なかたちで行われ,パソコン通信やFAX通信などを活用した授業実践も積み重ねられてきた。こうした状況の中で,インターネットをどう活用するかを検討し,社会科での取り組みが中心に行われた。
 ネットワークの利用とは言っても,ネットワークの向こうには人がおり,その人たちとの「ふれあい」を重視しようという考えが基本となっている。このことは,従来のパソコン通信の活用でも同様であったが,さらに広く様々な人々との交流を意識しているようである。

2)具体的方略
 技術的なサポートが期待できないため,活用の中心はWWWサーバでの情報発信と,情報収集であった。地域についての学習では,子どもたちが学習を進めていく上で必要となる情報や,子どもたち自身が収集した情報をWWWサーバに蓄積していき,最終的には単元を網羅した学習資料が学習成果として作り上げられるといった実践が行われた。歴史の学習では,歴史上の人物に対する評価をホームページ上でアンケート調査を行うことによって収集し,電子メールで寄せられた情報をもとに授業を進める実践が行われた。
 このほか,方言に関する情報を収集する活動を通して交流が始まり,方言に関するホームページを作成している方との共同企画で「埼玉の方言」のページ【図3-1-2】が実現した例や,教師が学習に利用できる小学校のWWWサーバへのリンクのページ【図3-1-3】を作成し,相互に情報交換を行うようになっていった例などもある。

4.学習活動

<事例1>
(1)学年    6年
(2)教科    社会科
(3)単元領域  「せまろう!横浜開港と明治維新に尽くした人々の思い」
(4)具体的活動
 学区内の公園に井伊直弼の銅像がある。どうして,ここに銅像があり,何をした人なのかを調べる活動を通して,日米修好通商条約,安政の大獄,横浜の開港といった歴史上のことを学んでいく。こうした活動の中で様々な情報収集活動を行う。
 さらに,井伊直弼について他地域の人たちはどう思っているのかについて,教師がアンケート調査のホームページを作り,電子メールで様々な人たちの意見を収集する。ここで収集した情報を授業で取り上げ,子どもたちの考えとの比較を行う。子どもたちは,自分たちが調べたことをもとにして,自分たちの考えと異なる人に電子メールで質問をしたり,意見交換を行う。こうした活動の後,さらにクラスで意見交換を行い,その後の歴史的展開や関連した内容について学んでいった。

<事例2>

(1)学年    4年
(2)教科    社会科
(3)単元領域  「MM21と吉田新田」
(4)具体的活動
 子どもたちが学習を進めていく過程において必要な資料を教師がデータベース化して,WWWサーバに蓄積していく。子どもたちは調べ活動の中で,こうした資料を活用したり他の資料を探したり,様々な情報収集活動を行う。子どもたちが調べた内容や収集した資料は,それぞれに工夫して紙芝居にしたり,新聞にまとめたりしていくが,その過程で必要に応じてコンピュータを利用する。
 また,校外学習に出かける時には,カメラやビデオを利用して記録しておく。こうして作られた子どもたちの資料についてもWWWサーバに蓄積していくことによって,最終的には単元を網羅した学習資料が完成する。作成された資料は,他学年で利用されたり,次年度の同学年での学習に活用される。また,他地域の子どもたちが学習に役立てることも可能である。

<その他の実践>
 本町小学校のホームページには,数多くの実践に関わる情報が提供されている。1年生「はじめてのし」,4年「横浜に水がとどくまで」,4年「詩の広場」,5年「米の名前の由来調べ」,6年「短歌と俳句の広場」,「わたしたちの卒業文集!」など,国語の作品や社会の学習データが多い。中には,子ども一人ひとりが自分で作った詩を朗読した音声ファイルが提供されているものもある【図3-1-5】。
 また,この他,学校行事の記録や本町小学校が出版した本の原稿,特設インターネットクラブによるマルチメディア横浜紹介など非常に充実した内容となっている【図3-1-6】。

5.成果と課題

 WWWサーバに短期間でこれだけの情報が蓄積されるためには,そのためのデジタル化された情報が必要である。本町小学校では,これまでに子どもたちがワープロソフトやお絵描きソフトを充分に使いこなしてきているために,詩や作文のデータも,社会科の資料データも自分のフロッピーディスクに保存するところまで子どもたち自身で何の抵抗もなくできるようになっている。こうした,コンピュータリテラシーの育成は,オープンな情報環境の寄与するところが大きく,今後ネットワーク利用に関しても,子どもたちが日常的に利用できる環境が整備されていくと同時に広がっていくに違いない。しかしながら,これだけコンピュータ活用に関する実践の蓄積がある学校においても,ネットワーク利用に関する技術は一から勉強せざるを得ず,ネットワーク活用のアイディアがあっても,実現が難しいことも多いようである(電子メール,ニュースの活用等)。また,導入されているコンピュータも旧型のものが多いために,せっかくネットワークが敷設されても,性能が不十分なために接続できないという問題も抱えている。こうした,技術移転や基盤整備の問題は,今後インターネットへ接続される学校が増えるにしたがって拡大していくと思われる。
 また,インターネットを教育で利用するためのカリキュラムを教科の枠組みの範囲内だけで考えることは難しいようである。新たな枠組みによる授業の構想をどう進めていくかが課題であろう。

(野中陽一:和歌山大学教育学部)


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